初期の時代、評論家たちは「モルモン書には文学的価値はない」と考えていました。例えばある人は、ジョセフ・スミスは「愚かな人」であり、モルモン書は「低能で 軽蔑に値するひどくばかげた書物。啓示であると偽り、社会に広められようとしている」と主張しました。しかし、モルモン書に対して最も疑いを抱いていた評論家の中には、徐々にその論調を改める人もいました。

例えば、ジョセフの伝記作者フォーン・ブロディは、ジョセフを「並外れた才能を持つ神話作者」とみなしました。そしてイェール大学の文学者ハロルド・ブルームは「信仰深い天才」であると認めました。この劇的な変化に疑問を持つ人もいるでしょう。「『愚か者』のジョセフ・スミスが、どのように『天才』ジョセフ・スミスへと変わったのか?」と。

モルモン書に見つけられる複雑さと一貫性

この変化はジョセフ自身とはほぼ関係なく、彼が3ヶ月足らずで口述して書き取らせた588ページの本に関係があります。さらに分析を進めていくと、人々が想像するよりはるかに複雑で、高度な内容であることが明らかになったのです。

モルモン書の複雑な構成が注目に値するということを、様々な角度から証明することができます。本文には 200人以上の登場人物が記されています。それに、150ヶ所以上の地名、多数の移住者、独特な文化、3つの暦法、計量方法、複雑な原文、系図、血族の歴史、政治史、実際にあった訴訟事件、リアルな戦争の描写、多数の文学分野、回想、見事な教義の講話、成就した多数の預言、1,000を超える文献の相互関係、ヘブライ文化の文学的要素が盛り込まれています。

驚くべきことに、これらの要素すべてにほぼ誤りはなく、物語の中に複雑に織り混ぜられています。例えば、本文中には 600を超える地理的関連性が記されていますが、すべての都市、土地、水域、丘や地域は、その周辺地域と矛盾しない空間関係を保っています。

一貫性を証明する別の例として、エテル書に記された長い系図が挙げられます。第1章では、エテルからさかのぼって、ヤレドまでの30人の王が紹介されています。年代を逆行していることを除けば、この系図はモルモン書の骨組みとなり、それぞれの治世を正確に記録しています。

預言者たちによって継承されてきた多くの版の内容を把握し、そのすべてをつなぎ合わせるのは骨の折れる作業です。しかし詳しい分析により、モルモン書の原文は見事に首尾一貫した記録としてまとめられていることが分かります。

数々の記録がまとめられて、現在のモルモン書になる過程

古代で実際に使われていた手法とヘブライズム

ヒラマン書でレーマン人サムエルは「イエス・キリスト、すなわち神の御子、天地の父、時の初めからの万物の創造主」の来臨を預言しました。この3つの称号は、約250ページ前に記されているベニヤミン王の言葉から、一言一句同じ言葉が引用されています。これは、モルモン書に収められている別々の書に相互関係があることを示す一例です。

アルマ書の17章から27章では、回想の中でさらに回想が繰り広げられています。この技法によって読者は、アモナイハの滅亡を2つの異なる視点から見ることができます。しかしそれぞれの回想は、きちんと元の話に戻るように巧妙にまとめられています。アルマ書11章では発展した計量方法について書かれています。これは古代メソポタミアやエジプトで使われていた方法と一致しています。そして、その売買単位は驚くほど実用的です。

モルモン書には、救いの計画のような独自に発展した教義がたくさんあります。預言者たちは皆、この中心的な教義を人々の状況に当てはめて教えましたが、彼らが教えた教義が聖書に基づく教えだったことは明らかです。

おそらく最も印象的なのは、古代ヘブライ文学における伝統や文化が読み取れるヘブライズムの多様性と、その量です。このヘブライズムは、本文が主張するイスラエル人の背景と一致しており、どれも非常に精巧に組み込まれています。例えばアルマ36章は、この章全体にわたって交差配列法が使われており、17の重要な概念を2回ずつ繰り返し説いています。段階的変化と呼ばれる手法は、概念の一体感を生み、クライマックスに向けて概念を繰り返し紹介しています。モルモン書には、少なくとも50種類の文学的ヘブライズムが含まれています。その多くは数十ヶ所で使用され、交差配列法などは何百と確認されています。

モルモン書の膨大な情報と内容を一人でまとめ上げたことを示す図

学者トールキンと農民ジョセフ・スミス

この記事だけでは、モルモン書の見事な複雑性、その奥行きと広がりのすべてを伝えることはできません。しかし、この書物が馬鹿げた書物でないことは十分証明しています。

壮大な世界観のあるモルモン書は、トールキンの指輪物語と比較されることがあります。トールキンは中つ国(なかつくに)の世界と、その世界の登場人物を何十年もかけて展開し、見直してきた英語教授です。

一方で、ジョセフ・スミスは無学な農民でした。モルモン書は多数の証人の前で74日間、口述して書きとらせました。訂正作業はほぼなく、メモや参考資料もありませんでした。翻訳の中断後に、どこまで進んだかを筆記者に確認することもありませんでした。

ジョセフが天才かどうかに関わらず、このような状況下で多くの複雑な要素を組み込み、完璧につじつまを合わせるなど、たとえトールキンのような熟練の文学者であってもありえないことです。しかし、読み書きの経験がほとんどなかった弱冠23歳のジョセフ・スミスが、これを成し遂げたのです。

モルモンの学者ダニエル・ピーターソンは、次のように書き留めています。

「モルモン書の入り組んだ構造と複雑さは 西部開拓時代にほとんど学識のない肉体労働者から生まれたと言うよりも 古代の筆者たちが数世紀にわたり さまざまな文献を用いてまとめたという方が納得できます」

このため、モルモン書の複雑さ、一貫性、精巧さは、ジョセフ・スミスも繰り返し証したように、この書物が本当に神の賜物と力によって翻訳されたという優れた証拠になります。