モルモン書はイエス・キリストについてのもう一つの証であり、聖書と対になる聖典です。モルモン教会とも呼ばれる末日聖徒イエス・キリスト教会で最も読まれている聖典です。しかし、ローヤル・スクーセンほどこの聖典を深く研究した人は、ほとんど皆無と言っていいでしょう。彼はブリガム・ヤング大学の言語学と英語の教授で、1988年に始まるモルモン書の原本検討プロジェクトの編集長を担当しました。

このプロジェクトは、もともとの文章を専門的に研究することから始まりました。文章が書き写され、複製、印刷される過程で起こってしまった間違いを見つける作業です。スクーセンは、モルモン書の英語のオリジナルを探すのに25年の年月を費やしました。その研究の成果は、本だけでなく数多くの論文やシリーズの分冊で発表されています。また、2015年の前半にブリガム・ヤング大学で行われた3回の講義の中で、新しい発見について発表しました。そのビデオはYouTubeで見られます。そのシリーズは「25年の研究:モルモン書の文章について学んだこと」と名付けられました。

この研究プロジェクトでスクーセンは、書き写しのそれぞれの段階で、意図せずに変わってしまったところや、編集作業の一環として変えられたところについて調べました。モルモン書に記されている古代の預言者はこのように述べています。

「ところで、もし誤りがあるとすれば、それは人の犯した間違いである。したがって、キリストの裁きの座で染みがないと認められるために、神にかかわるものを非難しないようにしなさい。」(モルモン書表台紙より)

スクーセンの研究は、この言葉を支持しています。つまり、どのような過ちがあったとしても神の真理は変えられていません。

モルモン書の翻訳

言語学者であるスクーセンの研究で焦点が置かれたのは、現代におけるイエス・キリスト教会の最初の預言者、ジョセフ・スミスによって翻訳されたままの英語の原稿でした。序文で述べられているように、モルモン書は古代アメリカ大陸の預言者たちによって残された記録が編纂されたものです。モルモンという名の歴史家でもある預言者は、それらの記録を金版に記しました。それから息子のモロナイに記録を渡し、その息子が編纂の作業を終えてからクモラの丘に隠しました。

1823年9月21日、栄光に満ちた復活体のモロナイが預言者ジョセフ・スミスに現れました。クモラの丘に埋められている古代の記録に関する指示を与え、それが英語に翻訳されることになったのです。やがてその版はジョセフ・スミスに渡され、ジョセフは神の賜物によってそれを翻訳しました。

3人と8人の証人を選ぶ前、ジョセフ・スミスは金版を誰にも見せてはならないと、彼の妻でさえも見せてはならないと指示されました。妻のエマは布に包まれた状態の金版しか見たことがありませんでしたが、彼女は次のように言いました。

「その版はわたしが用意したリネンの布に包まれた状態で、よくテーブルの上に置かれていました。一度だけ、版を布の上から手で触ったことがあります。その輪郭と形をなぞってみました。厚紙のように曲げられそうだと感じました。本の端を親指で持ち上げてページをめくるように版の端をパラパラと動かすと、金属をすりあわせる音がしました。」(「エマ姉妹の最後の証」『セインツ・ヘラルド』1879年10月1日, 290ページ)

スクーセンの研究は、預言者ジョセフが金版を変体エジプト文字(モルモン9:32)から英語に直す作業から始まりました。ジョセフ・スミスは聖見者の石と呼ばれる道具を使って記録を翻訳しました。スクーセンは、その道具がどのように使われたのかを正確に知ることはできませんが、証人の記録から少し垣間見ることができます。現存しているジョセフ・スミスに関する文献をすべて集めて出版する、ジョセフ・スミスの論文プロジェクトから、聖典や歴史的な記載から次のような詳細が編纂されました。

金版と一緒に埋まっていたのは「2つの石がはめられた銀の弓」で、さらにその弓は胸当てに付けられていました。後にその2つの石は聖書の言葉で「ウリムとトンミム」と呼ばれるようになりました。ジョセフはこれらの石を「その書を翻訳するために」使うように指示されました。翻訳しながら彼は、筆記者に口述しました。エマ・スミスは、ジョセフ・スミスが金版の最初の部分を翻訳するのにウリムとトンミムを使い、残りの部分の翻訳にもう一つの聖見者の石を使ったと話しています。他の記録によると、ジョセフ・スミスはその石またはウリムとトンミムを、外からの光が当たらないように帽子の中に取り付けて、覗き込むようにして翻訳したと書かれています。

スクーセンの目的は、その聖見者の石を通して見て翻訳を書き留めた原稿を見つけることでした。

 オリジナル原稿と印刷会社の原稿

スクーセンの最初の課題は、預言者ジョセフが筆記者に口述した時の手書きの原稿を見つけることでした。モルモン書の手書きの複写は2つあります。オリジナル原稿と、印刷会社の原稿の2つです。オリジナル原稿は、ジョセフ・スミスが翻訳しているときに筆記者が書き取ったものです。印刷会社のものは1830年の版のモルモン書の印字を準備するために、オリジナル原稿から印刷技能士が書き写した原稿です。印刷会社の原稿はほとんど全部がそろっていて、現在はコミュニティ・オブ・クライストと呼ばれている復元末日聖徒イエス・キリスト教会が所有しています。オリジナル原稿はばらばらになっていて、一部は個人が所有しています。スクーセンはその両方を調べることができました。

1841年、預言者ジョセフはオリジナル原稿をノーブーハウスの角石の中に置きました。ノーブーハウスは宿泊所になるはずでしたが、結局完成には至りませんでした。 スクーセンは次のように語っています。

「1882年にルイス・ビダモン(エマ・スミスの2番目の夫)がその角石を開けたところ、水のせいでほとんど読めない状態のオリジナル原稿を見つけました。ビダモンは保存状態がよかった部分は手放しましたが、一部の原稿は手元に置いておきました。」

イエス・キリスト教会はビダモンが手放した原稿の多くを所有していますが、それはオリジナル原稿の約25%にあたります。ルイス・ビダモンがとっておいた原稿は、ユタ州バウンティフル市のウィルフォード・ウッドが1937年にビダモン家から買い取り、ウッド家の手に渡りました。スクーセンはプロジェクトの一環としてウッド家が所有する原稿を見ることができ、保存して写真を撮ることができました。

スクーセンが原稿を手に入れたとき、原稿は約2.5センチ✕5センチ✕15センチの大きさで、すべてのページが張り付いてしまっていました。一枚ずつはがす作業は「とてもわくわくする作業だった」とスクーセンは話しています。原稿は読み取りづらい文字を見やすくするため、白黒に反転して撮影されました。それからケースに収められ、ウッド家に返されました。スクーセンは全部でオリジナル原稿のわずか28%しか見つからなかったと語っています。

スクーセンの発見

スクーセン教授の25年間の研究によって、モルモン書の原稿について多くの情報が明らかにされました。

「研究を初めてすぐに、オリバー・カウドリや他の筆記者が、オリジナル原稿から印刷会社に送る原稿を作成する際に誤りが入り込んだことに気づきました。実は、オリジナル原稿にも誤りがありました・・・それでも、それまでの解釈が正しかったことを裏付ける重要な証拠が見つかりました。その解釈とは次のとおりです。
(1)原稿の内容は口述され、一語一句記載されたこと
(2)モルモン書の名前は訳出の最初の段階で何度も出てきており、ジョセフ・スミスは名前のつづりを見ることができたこと
(3)口述の最中、筆記者が書き間違えたとき以外は、翻訳の訂正がなかったこと

また、スクーセンは「オリジナル原稿は、言い回しや語彙において一貫性があり系統的に記されたものであること」に気づきました。

彼の研究は2つの原稿を調査することにとどまりませんでした。1830年に初めて出版され、第20版にまでなったモルモン書を一語一語徹底的に検討しました。その結果、見つかったのは小さな誤りだけでした。教義は変えられていませんでした。彼の25年の研究は素晴らしい成果をあげ、モルモン書の原稿に関わった人たちについて知ることができました。

モルモン書についての証

スクーセン教授は、彼のモルモン書に対する証は、原本検討プロジェクトによって得たものではないと書いています。

「モルモン書はその原稿が、オリジナル原稿や20もの版が刷られる間にどのように変化したかに関係なく、それ自体が検証に耐えうるものです。モロナイは、よく祈って読む人には、主がこの書物が真実だと証してくださると約束しています。原稿の不適切な表現や誤りは関係ありません。(モロナイも誤りがあることを、モルモン書の表題紙の最後の部分で記している。)わたしもこのプロジェクトを始めるずっと前に、個人的にこの書物が真実であると証を得ました。わたしはこの書物が、主から与えられたものであることを証明してもらう必要はありませんでした。また、原稿にある誤りが、この書物が主のものであることを御霊が証する妨げにはなりません。…… たとえ小さな誤りが原稿の中にあったとしても、主はこの書物が真実であることを証してくださいます。わたしは教義や主要な記載を変えるような誤りは無いと知っています。その書物には、これまでに出版されたどの版においても、誤りや間違った表現、文法的に正しくない表現はなく、読む人がモルモン書の証を得るのを妨げることはありません。」

預言者ジョセフ・スミスの証がモルモン書の序文にあります。

「わたしは兄弟たちに言った。『モルモン書』はこの世で最も正確な書物であり,わたしたちの宗教のかなめ石である。そして,人はその教えを守ることにより,ほかのどの書物にも増して神に近づくことができる。」

古代アメリカの預言者であったモロナイは、心から真理を求める人々に、自分でこの本の真実性を知ることができると語りました。

「また、この記録を受けるとき、これが真実かどうかキリストの名によって永遠の父なる神に問うように、あなたがたに勧めたい。もしキリストを信じながら、誠心誠意問うならば、神はこれが真実であることを、聖霊の力によってあなたがたに明らかにしてくださる。」(モロナイ10:4)

 

この記事はLisa M.によって書かれ、bookofmormononline.comに投稿されました。