編集者の一言:このお話は末日聖徒でありスケルトン競技のオリンピック選手であるノエル・ペース姉妹の体験談を彼女の本から抜粋したものです。ノエルは2014年のソチオリンピックで銀メダルを受賞しています。そんな彼女が末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン書があるので誤ってモルモン教と呼ばれる)の会員としての服装について起きたエピソードを紹介します。

オリンピックに備えてのイベントへの参加

はじめてオリンピックに出場する前、メディアサミットという大きなイベントに招待されました。このイベントにはスポーツ、健康、フィットネス関係のあらゆる新聞社、雑誌、テレビ番組、慈善団体などが参加し、ネットでの視聴も可能です。オリンピックで活躍すると期待を寄せられる選手たちが招かれ、参加者はイベント中に着用するため様々な服を持参するように言われます。持ってくるように言われた服は、運動着LDSの教会に着て行くようなよそ行きの服、フォーマルな服、競技用の服と用具、お出かけの服、冬服、そしてそれ以外に結局クローゼットに残っているすべての服を詰めました。

サミットの終わり頃、イベントスタッフからこれからとても大きな写真撮影が行われるという説明を受けました。ゲッティイメージズ、エヌビーシー、ウィメンズヘルス、雑誌Shape、AP通信やその他多くの大手メディアの写真家たちが参加する撮影会でした。多くの写真家たちは、アスリートに鍛え上げた体を披露するようリクエストしました。鍛錬された筋肉や肉体美を求めていたのです。アスリートたちがポーズをとるたびに、記者たちは拍手をしたりして盛り上がりました。

わたしは撮影会の前に最後のインタビューへと急かされ、インタビューが終わるとすぐに照明と撮影のセットが完備してある巨大なスタジオに入りました。三人の女性がわたしのスーツケースをつかみ、中に入っていた服をすべてテーブルの上に並べました。その女性たちはわたしが撮影でどの服を着るべきか話し合っていました。

そしてダイアンという女性がわたしの手を引っ張り、仮設のような更衣室へと急かしました。大勢の人が走り回り、フラッシュが飛び交い、人々は大声で指示を出しているという大混乱状態の中で、着替えをする人を撮影スタッフの視界から遮るのは棒にかけられた黒いカーテンだけでした。そのカーテンのうしろへ行くと、三人の女性が走ってきて、わたしに撮影のどのタイミングでどの服を着るのか説明しました。

「1分!」と誰かが叫ぶのが聞こえました。ダイアンはわたしに、これから15分間、たくさん着替えをしなければいけないのでできるだけ素早く着替えるようにと言いました。負けず嫌いのわたしはそれを「挑戦」と、受けて立ちました。急いで着替え、撮影へと向かいました。

更衣室から出るとすぐに、イスに座り旗を振るように言われました。「着替えまで2分!」周囲のカメラが撮影をしている間に2分はあっという間に過ぎ、わたしはカーテンの裏で冬のコートと雪用のズボンに着替えをしていました。

雪の上に寝転ぶノエル・パーク

写真はLDS Living より

さっきと同じ男性が「30秒!」と叫びます。更衣室から駆け出すと、撮影のセットは既に変わっていました。用意された偽物の雪で遊ぶように指示を出されました。「2分!」同じ男性がまた叫びます。わたしは雪とたわむれ、撮影陣はわたしのまわりを動き回り、笑うように、とか「試合のときの顔」でポーズをとるようになど指示を出しながら撮影をしました。

時間が来てわたしはまた更衣室へ戻りました。「1分!」わたしは急いで雪用の服を脱ぎ、よそ行きの服へ着替えました。スタジオの照明は変わっていて、次はポートレイト撮影でした。その時点では何度も着替えをして髪の毛がぐちゃぐちゃだったことが心配で、とにかく鏡で確認したいと思っていました。「あと20秒で着替え!」シャッターが何度も切られ、わたしはカーテンの後ろへ走りました。

決断の時

更衣室へ戻ると、ダイアンにドレスを渡されました。「あと3分!」渡されたドレスはわたしの私物ではなく、ダイアンにはわたしが困惑していることが明らかでした。

「女性アスリートはみんな健康な心臓と健康な生活を推奨するために赤いドレスで撮影をしています。このドレス、とっても似合うと思いますよ。」

ストラップの赤のドレス

写真はLDS Livingより

彼女からドレスを受け取り、ハンガーにかかったそのドレスを見ました。袖はなく細いストラップがついているだけで、襟元もとても深く、丈は太もも半分も隠れないくらいのものでした。目にした瞬間に、LDSの標準を持つわたしにこの服は着られないと判断できました。

でもそれは健全な目的のためでしょう?「2分!」とカーテンの反対から男性の声が聞こえます。健康な心臓のためよ。そのために少しくらいお洒落したっていいじゃない!この肉体を得るためにすごく努力したし、それを見せびらかしたい!皆がわたしを待っているわ。なんて説明したら良いのかしら。わたしは唯一ドレスを着なかったアスリートになってしまうわ。

しかし、そのような思いに反して、そのドレスを着るか着ないかはわたしにとってとても容易な選択でした。なぜならわたしはその出来事以前に、すでに「いつでも、どのようなことについても、どのようなところにいても」神の証人になると決めていたからです。(モーサヤ18:9)

ずっと前に、世の中の考えや期待はわたしが何者であり、何を信じているかを左右するものではないと決断していました。わたしが着る服は、自分は何者か、そしてわたし自身の考えを表現する一つの手段です。わたしはダイアンにドレスを返し、「末日聖徒イエス・キリスト教会の標準に合った慎み深い服を着たいです。それがわたしらしさなので。申し訳ありませんが、このドレスを着ることはできません」と言いました。ダイアンはわたしを偏見の目で見て、どうにかドレスを着るように説得すると思っていましたが、彼女の反応に驚きました。

「わたしもクリスチャンで、あなたの信条を理解し、尊敬しています。何か他に着られるものを見つけましょう」彼女がわたしの決断をサポートし、理解してくれたことに驚嘆し、嬉しくなりました。

この経験から、トーマス・S・モンソンの言葉を思い出しました。「日々の生活で信仰の試しを逃れることはまずできません。何が良くて何が悪いのかといったことに関して,時に多くの人の中でほんの少数のグループに入ることもあれば,たった一人になることすらあります。たとえ孤立することになったとしても,信仰を曲げずに道徳的な価値観を貫く勇気があるでしょうか。」

彼はこのようにも言いました。「皆さんのいわゆる友達が明らかに間違ったことを強要しようとするなら、たとえ独り取り残されたとしても、正しいことを擁護する人となってください。周りの人が倣ならえる模範、つまり光となるように、道徳的に正しくある勇気を持ってください。自身の潔白な心と道徳的な清さよりも価値のある友情などありません。自分は清くふさわしいという確信をもって、与えられた務めを果たせるというのは、何とすばらしいことでしょう。」

更衣室でのあの瞬間はわたしの信条を試す機会でした。独りきりでも義を選ぶことができると気づけて自信がつき、その経験は強さを与えてくれました。それから居辛い場面から立ち去ることや、不適切だと感じた会話を他の話題に変えるために必要な勇気が増しました。勇気を見つけ、信じることのために一人でも気高く立ちましょう。

ダイアンは服にあふれた箱をあさり、全然かわいらしくないけれど慎み深いドレスを見つけました。そのときの写真は今でもインターネットで見つけることができ、そのスタイルを見るたびに恥ずかしくて身が縮む思いをします。でも、それはスタイル以上に大切な意味があるのです。わたしが何者であるかは、着ている服によって決められるわけではありません。世間でまわりの人が何を言おうと、どう思おうと、わたしは自分が何者であるかを知っています。体を見せびらかすことからくる世間の注目など必要ありません。わたしの体はわたしにとって神聖なものです。

主に従うと良い印象を残す

それから4年後、わたしは同じ場所で開催された、同じメディアサミットに参加しました。インタビューからの撮影というスケジュールをこなしている中で、見覚えのあるセットにたどり着きました。わたしはまぶしい照明と、大声、撮影陣に満たされた大きな部屋に入りました。

ドアの向こうへ行くと、一人の女性がわたしの手を取り、ハグをしました。それはダイアンでした。「あなたのこと覚えてるわ!良いクリスチャンでしょ。今回はあなたの標準に合わないような慎み深くない洋服は一着もないわよ」その言葉にわたしは笑みをもらしました。それはわたしが自分の信条のもとに気高く立っただけではなく、その行いが他の人に良い印象を残したからです。

この記事はもともとNoelle Pikus-Paceによって書かれ、ldsliving.comに”LDS Olympian Shares What Happened When She Was Faced with a Modesty Dilemma at a Photo Shoot“の題名で投稿されました。
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