西舘万理さんは、地域で根ざしてたボランティア活動に携わることになったきっかけや、末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)の会員として近隣の方々と繋がりをもつことを大切にしています。教会の第15代大管長であるゴードン・B・ヒンクレーは、かつてこのように話しました。
「貧困と明らかな物資の不足が全世界にあり、反抗や卑劣な行為、低俗で汚らわしい行為が数多く見られ、多くの親が離婚し、家族がばらばらになっています。夢も希望もなく寂しい生活をしている人が非常にたくさんいます。こんな不幸が、至る所にたくさんみられるのです。
皆さんにお願いします。世の中を少しでも良くするために、何かを得るだけでなく、与えるようにしてください。」*1
西舘さんはこの勧告に従い、周りの人たちに「与える人」となるよう奮闘しています。彼女は夫と、ゴールデンレトリバー犬のシンバくんと一緒に京都府で暮らしています。人口およそ1,400人の町に暮らしながら、毎日ボランティア活動に励んでいます。そんな彼女をインタビューしましたので、ご紹介します。
インタビュー
—西舘さんは色んなボランティアをされてきたと伺いましたが、どのようなことをされてきたのか、簡単に紹介していただけますか?
この町に引っ越してきてすぐの頃は、ボランティアではなくて役場の「集落支援員」という仕事をしていました。町の瓦版を作って、民生委員さんや地元の老人クラブを紹介することで、町民同士がつながるきっかけになればと思ったんです。
もう一つは「いどばた市」というフリーマーケットのような催し物を2ヶ月に1回することにしました。各ご家庭で使わなくなった物を集めて安く販売する、という場ですね。このあたりの集落は、独居されている高齢者の方が多いです。だけど皆さん、物をとてもたくさん持ってらっしゃるんですよ。生前整理のお手伝いになればと思って始めました。希望される方の家にこちらから出向き、売って欲しいものを預かって「いどばた市」で売るんです。その売上のうち、95%を出品者に返すというシステムをとっているので、出品される方も少額ながら利益を得ることができると、好評をいただいています。
それと、この企画は物を売ることだけが目的ではないんです。出品物を引き取りに行くと、みなさん本当にたくさんおしゃべりをしてくださって。笑 仲良くなれるのはもちろんなんですが、困っていることや助けが必要なことを知るきっかけにもなっているんです。最近、買い取り詐欺の被害が近場の町で頻発しているので、このあたりに住むおじいちゃんおばあちゃんが被害に遭うのを防ぐことができれば、と思っています。
—それは大変参考になるすばらしい取り組みだと思います。では、その集落支援員を辞められて、現在はどのような活動をされていますか?
現在はボランティア活動だけですね。地元の女性4人と一緒に立ち上げた、「HOME」という団体で色々なことをしています。例えば、町のイベントがある時に飲食屋台を出したり、ボランティア活動で学生さんたちが来られた時に炊き出しをしたりしています。あとは、会費制の「だんらんハウス」というグループを作って、月に1回参加者みんなでご飯を食べながらおしゃべりをする場を作りました。
—月に1回ということは、そんなに頻繁ではないですね。
そうなんです。最初に「HOME」を作った時に「家庭最優先」というルールを決めてあるんです。それぞれの家庭が一番大切ですから。無理なく続けられる頻度で、のんびりやっています。
—とても大切なことだと思います。その「HOME」と、あと京都府の事業の一環であるボランティアにも携わっているんですよね。
「相楽暮荘(そうらくくらそう)」という、移住呼びかけ事業ですね。移住希望者さんたちに町を紹介して回ったり、空き家を見せてあげたり。時々、家に泊めたりすることもあります。
あとは、社会福祉協議会に登録しているので、自力で通院できない年配者の送迎や、草刈りや片付けなどの家事を手伝ったり、自炊が難しい方にお弁当を届けたりしています。
—本当にたくさんの活動をされていますが、どのようなきっかけでボランティアに携わり始めたのでしょうか。
きっかけは東日本大震災でした。何度かボランティアとして東北地方にお邪魔して、被災地の大変な状況を目の当たりにしてきました。その時に、たくさんの人たちが長い人生をかけて積み重ねてきた財産や大切にしていた物がダメになってしまったのを見て、「物はいつか無くなってしまう」と痛感したんです。
でも、被災された方が言われた「家族がいるから、生きていける」という言葉を聞いて、やっぱり「人が大切だ」と感じました。
わたしは大阪で生まれ育ちましたが、結婚して一度関東に移って、また京都に引っ越してきたんです。この町に知り合いは誰もいませんでした。シンバくんのお散歩をしている時に、道で会う方に挨拶をしても返してもらえなくて。とても閉鎖的な町だと感じました。だからこそ、もっと仲良くなりたいと思ったのもあります。それに、一人で寂しく暮らしている人たちの助けにもなりたかったんです。そういった経験もきっかけとなって、集落支援員をやってみようと思いました。
—自分が経験しているからこそ気づくことや、できることがあるということですね。その経験があったからこそ、今のボランティア活動にもつながっているということですか。
はい。将来的には、「おたがいさまビレッジ」というものを作りたいんです。
—「ビレッジ」ということは、村ですか?
まぁ、欲を言えば村も欲しいんですけど。笑 どういうものかというと、年齢に関係なく色んな人が助け合って暮らす集落です。近所のおばあちゃんが小さい子供がいるお母さんを助けたり、高いところに手が届かないおじいちゃんを若者が助けてあげたり。
今、ボランティア活動をしていて「ありがとう」って言ってくださる方がたくさんいるんですが、時々「ありがとう」と言われることがしんどくなることがあるんです。
—しんどい、とは?
言ってもらうばかりだといけないな、と。「お手伝いさせてもらってるんだよ。だからお互い様だよ」っていう方が、わたしは好きなんですね。互いの持っている才能やスキルを使って、助け合って生きていけたら素晴らしいと思うんです。
—住んでいる人たち皆がそうなる、というのは時間がかかるかもしれませんね。
そうですね。世の中には「ありがとう」という言葉に不足している人がたくさんいると思います。孤独で寂しい思いをしている人を「ありがとう」で満たしたいんです。そうすることでその人の心に余裕ができて、今度は周りの人に「ありがとう」や「お互い様ですよ」を言えるようになると信じています。たくさんのお金や物がなくても、心が豊かで元気になれる。そんな村を作りたいんです。
—お話を聞いていて「シオン」みたいだな、と思いました。
そう!そうなんですよ!シオンのような村を目指してるんです。
—壮大な夢ですね!では、改めてお聞きしたいのですが、西舘さんにとって地域社会とつながることは、なぜ大切なのでしょう。
先程も少しお話しましたが、人は一人では生きていけません。それは絶対におもしろくないと思います。人との繋がりから学ぶことがたくさんあると思います。聖典に「隣人を愛しなさい」と書かれているのは、外国の人たちを愛するってことではなく、隣にいる人を愛するということなんですよね。周りの人達が幸せじゃないと、わたしも幸せを感じられないんです。自分だけが感じている幸せは、幸せではないので。
例えば、畑で野菜が収穫できたら、家族や近所の人と分かち合って食べた方がおいしいと思います。自分一人で食べてもおいしくないんじゃないかな。大阪に住んでいるわたしの両親や、関東に住んでいる夫の両親にも送ったりして。そうしたら、電話でもして「めっちゃおいしいやろ〜?うまくできてん〜!」なんて、コミュニケーションだって生まれるし、喜びは何倍にもなりますよね。
—西館さんの周りの人達はきっと、西館さんを通して主の愛を感じていると思います。近隣の方や一緒にボランティア活動をされている方たちは、西館さんが教会に行っていることはご存知ですか?
全員知ってますよ。笑 わたしは最初に会った時に言っちゃいますから。後々になって言うよりも、最初に言っておいた方が楽ですしね。
—どのような時に教会のことは伝えていますか?
やはり知恵の言葉からが多いですね。このあたりはお茶処で、ご自宅にお邪魔した時にお茶を出してくださる方が多いので、そういう時にお話しします。ですので、わたしはいつもマイボトルを持ち歩いています。「わたし、自分で持ってるので大丈夫です〜」って。笑 隣の市に住んでいる友達が、最近この町にカフェを開いたんですけど、そのお店に行くとハーブティーを出してくれるようになりました。
—自分の信仰を伝えるときに、心がけていることはありますか?
当たり前のことを伝える、という態度でいるようにしています。引け目を感じながらとか、変に大げさに伝えることはしません。あくまで自然体で、「教会に行ってるんですよ〜」という感じですね。
―こちらが当然のように話すことで、相手の方もすんなり受け入れてくださるということですね。地域の催し物だと日曜日の活動もあると思いますが、そういう時はどうしていますか?
基本的には出ません。日曜日は教会に行く、ということは皆さん分かってくださってますし。ただ、手が足りない時は教会の前に準備を手伝ったり、集会後に顔を出したりすることはあります。先程も触れた「HOME」という団体のモットーは「家庭最優先」なので、みんな理解してくれています。
—では、今後やってみたいことや目標はありますか?
一番の目標は「昇栄」です!玄関にその文字を貼って、家に来る人たちに見せてますから!笑 直近でやりたいと思っていることは、自給自足で生活できるように知識とスキルを身につけることです。末日が近付いて自然災害も増えて、世の中はどんどん混乱していくと思います。そういった中でも、たくさんの人たちと色んな物を分かち合って助け合いながら生きていけたらいいなと思っています。
あとは、自分に与えられた使命を果たすことですね。先程の「おたがいさまビレッジ」もそうですし、70歳になったら夫婦伝道に出るつもりです。あと、それぞれの両親をちゃんと看取ることも。いつか里親になることも、夫婦の目標の1つです。
—たくさんありますね!
本当にありすぎて。笑 改めて思うのは、今こんな風に色んなボランティア活動ができるのは、夫のおかげです。わたしがやりたいことを理解して、助けてくれています。
それに、本当に神様に感謝しています。什分の一の戒めを守っているので、お金の心配も一切していません。神様の戒めを守るなら絶対に祝福があるという信仰があります。苦しいことがある時は大好きな教義と聖約24章8節を読んで、励ましと力をもらっています。
「苦難の中で忍耐強くありなさい。あなたは多くの苦難を受けるからである。しかし、それに耐えなさい。見よ、わたしはあなたの生涯の最後まで、あなたとともにいるからである。」
—西舘さんなら、たくさんの夢を確実に実現できると思います。今日は本当にありがとうございました。
*1 Discourses of President Gordon B. Hinckley, Volume 1, 1995-1999 (2005年), 543